坂道では自転車を降りて

 突然、頭の中で織田の声が蘇った。
『先輩は意識はあったんですが、床に倒れてぐったりしてて。。』
 背筋に悪寒が走った。俺は今、何をしているんだ?もしかして、今西と同じ事をしているのか?
 俺は慌てて彼女から離れた。
「ごめん。俺。」

 彼女は動かない。涙でぐちゃぐちゃの顔。胸だけが泣いた後の息づかいのまま、激しく上下していた。開襟の白いシャツの隙間からのぞく胸元。芝生の上に投げ出されたツルツルした腕。いつもなら元気に弾んで見えるのに、今日は陶器のように白く壊れやすく見える。こんな時でさえ、その白い腕に欲情をかき立てられて、舌を這わせたくなる自分が、本当に情けない。

「ごめん。」
 もう一度謝ったけど、彼女は答えなかった。俺は悪くないと言ってくれた彼女。でもそれは、俺に失望して、俺に何も期待しなくなったからだ。恨まず、期待せず、全てを終わらせようとしている。どうしたら、彼女を取り戻す事ができるんだろう。追いかける程に彼女を追いつめて行く。少しでも、何かしてやりたくて、シャツを脱いで彼女の頭にかけた。彼女の傍らに座り直して日陰を作ってやる。

「俺は君が今でも好きだ。だから、明日からも一緒に帰ったり勉強したり、キスしたりしたい。でも、君が本当に嫌なら、友達に戻りたいって言うなら、、、もう、これ以上、君を苦しめるのは止める。無理矢理キスしたりして、ごめん。」
彼女はピクリとも動かない。俺がかけたシャツもそのままだ。

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