坂道では自転車を降りて
しばらくそうしていたけど、日差しを受けつづけている頭が、堪え難くなって来た。
「多、大野さん。あのさ。」
「俺、すっげー暑いんだけど、日陰に行かない?」
彼女は俺のシャツを胸に抱えて俺を見た。身体を起こし、日差しを受けて眩しそうに俺から目を逸らした。俺が彼女の為に日陰を作っていた事に気付き、あらためて俺をみた。気のせいかもしれないけど、一瞬、俺に身を寄せようとして、止めたようにみえた。あっという間に俺の理性が決壊しそうになる。
「あそこの屋根の下にベンチがある。行こう。」
「ありがとう。でも、もう帰るよ。」
彼女は帰り道の方を見て言った。紅い鼻。でも凛とした表情。少し落ち着いたみたいだ。無理に決断を迫るより、何日でも俺は待つべきなのかもしれない。でもここで帰してしまったら、多分終わる。これ以上は、俺が耐えられない。俺の方があきらめて、きっと冷めてしまうだろう。
「こんなに明るいのに、その顔じゃ帰れないだろ。送ってあげるから、もう少し、君が落ち着くまでここにいよう。。あそこに確か水道もあったはずだ。もう、君に触ったりしない。約束する。」
ひどい顔を指摘されたからか、彼女は憮然とした顔をした。
俺は立ち上がった。彼女の手を引こうと無意識に手が出たけど、触らないと約束したのでひっこめて、彼女が自力で起き上がるのを見守った。立ち上がると彼女は俺にシャツを返して来たので、俺はシャツを羽織った。俺がシャツを着ている間、彼女は帰らずに俺をみていた。