坂道では自転車を降りて

言葉と裏腹に、俺の身体がまた熱くなり始める。胸に何かがこみ上げて来て、思わず彼女の頭を抱いた。
「ごめん。本当にごめん。」
「ううん。私が暴れたからいけないの。だから、気にしないで。」
彼女は身体を強ばらせていた。いつもならすぐに柔らかくなる彼女の身体が、いつまで抱き締めても柔らかくならない。
「ごめん。」
もう一度言って、彼女の顔を覗き込むと、彼女はポロリと涙をこぼした。俺が慌てていると、彼女も慌てて弁解した。
「ちがうの。神井くんのせいじゃないの。勉強しないといけないのに、全然、進まないから、なんか、悔しいと言うか、不安で。。。」
 勉強がちっとも捗らないのも、考えてみれば無理も無かった。それを彼女自身も不安に思っていたんだ。

 そのままシクシク泣くかと思ったが、彼女はへへっと笑うと「今日はもう帰るね。おうちでがんばる。」と言った。俺は彼女をぎゅっと抱き締めてキスしたくてたまらなくなったけど、それ以上彼女に触ることは怖くてできなかった。
 俺の部屋を出る時、ドアの前で振り向いた彼女は、多分、俺が抱き締めるのを待っていたんだと思う。でも、俺が迷っている間にドアを開けて出て行ってしまった。どう考えても、今のは抱き締めてやるべきだった。鞄を抱き締めながら不安そうな顔のまま帰って行った彼女を見送りながら、自己嫌悪で唸ってしまった。

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