坂道では自転車を降りて
彼女はゆっくりと戻って来たけど、ぎりぎり俺の手の届かない距離で立ち止まった。俺が立ち上がり彼女の目の前に立つと、彼女は指先でそっと俺のシャツの裾に触れた。そんなに慎重にならなくても、とって食ったりしないんだけどな。肩を優しく抱き寄せて、腕の中に納めると、俺の胸に顔を埋めて安心したみたいに息を吐いた。
本当に可愛い。この子は、どうしてこんなに俺を惹き付けるのが上手いのか。外はこんなに暑いのに、触れ合う肌はしっとりと涼しげで、柔らかくて、いい匂いがする。俺ばかりが熱くて、どうしたらいいか分からなくなる。額に口づけると、嬉しそうに顔を上げて目を閉じた。唇を重ねるとやっぱり甘い香りがした。
優しいキスから、徐々に激しいキス。唇を舌を絡ませて吸い上げて、お互いの柔らかい器官を確かめ合う。気持ちよくて、頭がぼぉーっとしてくる。あの大野さんが、俺の腕の中で、恍惚とした表情で、こんなエッチなキスをして。俺に会いたいって、俺が好きだって。
夢中でキスを繰り返し、身体に触れようとして、我に返る。そうだ。もう外ではしないって約束した。それに、よく見てみれば、夏の夕刻はまだまだ明るくて、遠くだけど小学生らしい子供達が遊んでいた。急に恥ずかしくなって、目を逸らす。
「ごめん。こんなところで。」
彼女も同じだったのか、慌てて俺の腕の間から抜け出した。
「私こそ、ごめん。突然。」
「また、連絡するから、今日はもう帰りな。なんか、これ以上一緒にいると、また変な事しちゃいそうだ。」
「そうだね。わかった。また、連絡してね。」
俺は家まで送ろうかと思っていたけど、2人とも自転車だったから、途中で別れた。結局、その日も次の約束をせずに帰宅した。ずっと以前、約束があれば不安にならないと言っていた彼女の言葉を思い出したのは、数日が経ってからだった。