坂道では自転車を降りて
「何かあった?」
「何も無い。声が聞けたから、満足。」
こういう時の彼女は尋ねてもすぐには答えない。
「言ってみな。」
「。。。会いたい。」
ポツリと言う。
「そうだな。俺も。早く会いたいな。」
「うん。」
なんか、歯切れがわるいな。どうしたんだろう。
「会ったら一緒にしたいこと、何かある?」
「。。。。早く、会いたい。」
「そうだな。会えれば何でもいいな。」
「うん。」
でも、部屋に呼ぶのは、ちょっと気が引けた。どうしたら良いだろう。沈黙が流れる。
「月が綺麗だよ。君の部屋から見える?」
「。。。今は見えないや。屋根が。」
窓辺に立つ彼女の姿を想像したら、無性に会いたくなって来た。
何かを諦めたかのような大きなため息が聞こえた後、彼女がぼそっとつぶやく。
「早く、会いたいね。」
もしかして、
「今、会いたいの?」
俺の心臓がドクッと音をたてた。そうだ。彼女は、今会いたいんだ。俺も。
「違う。」
少しの沈黙の後、彼女は答えた。
「今から会う?会いに行ってもいい?」
「だめだよ。」
「行くよ。出てこられる?」