坂道では自転車を降りて

 信じられない。部屋着なのか、襟の大きく開いた袖無しのワンピース一枚に、素足にサンダル。洗っただけの髪。こんなのが夜中に独りでうろついてたら、襲ってくれっていってるようなもんだろ。

「こんな夜中に。。危ないだろ。何やってんだよ。」
思わず声を荒げた。
「。。。ごめんなさい。」
彼女は今にも泣き出しそうだ。
「ちゃんと家の人に、」
言って来てるわけないよな。抜け出して来たんだ。呆れて言葉が出ない。

「送るから、すぐ帰れ。」
「ごめんなさい。」
俯いた彼女は消え入りそうな声でまた謝った。
 彼女の後ろには彼女の自転車が置いてあった。俺は彼女の自転車に股がった。
「乗って。」
「でも、これじゃあ。」
 帰りに俺が歩く事になるって?自分の身の危険には無頓着なくせに、そんなどうでも良い事には気付くのか。俺が睨むと、彼女は大人しく荷台に乗った。

 無言で自転車を走らせながら考えた。彼女はどうやって家に入るのかな。軽装だけど、鍵は持っているんだろうか。もしかして、あのまま俺の部屋に連れて行っちゃっても、2人で夜を過ごしても、誰にもバレなかったんじゃないか?もしかしてそのつもりで来たのか?あれ?そうなのか?いや、でも。。

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