坂道では自転車を降りて
思わず自転車を漕ぐ脚が止まった。自転車を停めて彼女の顔を見た。彼女は相変わらず怒られた子供みたいな目で俺を見た。
いやいや、彼女に限ってそんなことあるわけない。何をバカな事を考えてるんだ。俺は前を向いて尋ねた。
「なんで、あそこにいたの?」
「。。。わからない。まだ起きてるかなって。」
俺が起きてるか確かめる為だけに、ここまで来たのか?この娘は、自分が女だって分かってるのか?
「そんなの気にしないで、したくなったら電話したらいいんだよ。夜中だっていいから。」
「でも、あまり邪魔したくなかったし。」
「本を読んでただけだって言っただろ。会いたかったらいつだって呼んでいいんだ。呼んでくれたら俺が君んちまで行くから。それくらいの時間はあるから。だから、こういうのはやめてくれよ。本当に危ないんだ。」
「ごめんなさい。」
「前も酔っぱらいに絡まれたじゃないか。電車では居眠りして痴漢にあったんだろ?こんなことばかりしてるからだろ。いいかげんにしろっ。」
「ごめんなさい。」
俯いたまま縮こまって言う。俺は大きなため息をついた。
「ねぇ、君は女の子なんだよ。分かってる?」
彼女は首を横に振った。どういう意味だ?
「君はちょっとしたイタズラか、冒険くらいの気持ちでいるのかもしれないけど、夜中に1人で出歩いたりしたら、どんなひどい目に遭うか分からないんだぞ。」
彼女は俯いたまま黙っていた。
「俺と一緒にいたって、絶対安全とは言えないんだ。そんなことになったら、俺だってどんだけ傷つくか。あんな目にあっといて、まだ解らないのか?」
彼女はまた首を激しく横に振った。何か言いたい事がありそうだったけど、多分、いつまで待っても何も出てこないんだろうな。俺はもう一度ため息をついて、また自転車を走らせた。