坂道では自転車を降りて

「あ、そうだ。先輩、もしよかったら、今度一回稽古を見てもらえませんか?」
椎名が思い出したように言った。
「そりゃ、いいけど。。なんで?」
「や、なんか、生駒さんが、煮詰まってるみたいで。脚本・演出って、やっぱ相当大変でしょう?いろいろ。」
「まあ、そうだな。」
 最近の椎名は役者組のゴタゴタまで把握してるのか。ポストを得て自信を得たからか、多恵のことを吹っ切れたのがよかったのか、ひがんだ所がなくなって、とても生き生きしている。設計ができなくても、こんな才能があったのか。

「次の月曜にまた稽古があるから。ちょっと見てやってくれませんか?」
「俺が見てなんとかなるのかな。」
 一年前の自分のことを思い出す。本当に無我夢中だった。だが、彼女との事意外はまあ順調だった。空いた時間には次の脚本まで書いていて、ノリにノッていた時期だ。あまり苦労した記憶がない。ただ、俺は文化祭の時には既に2度目の脚本・演出だった。初めての時はどうだったかな。
「いや、3年生にそこまで世話かけるつもりはないので。神井先輩と大野先輩が学校にくる用事があったら程度で良いんですが。」
「わかった。考えておくよ。」
俺は部室の鍵を預かった。

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