坂道では自転車を降りて

 そうか。なんとなく分かった。彼女はこれまで叱られた経験があまりないんだ。考えてみれば彼女は大人しそうだし、真面目だし、誰かと議論はしても、怒られるなんて、想像もつかない。いきなり俺に怒られて、混乱してしまったんだ。

「身体に触られるのは、神井くんがそうしたいなら、か、かまわない。縛られたのも怖かったけど、多分もう平気。でも、」
「でも?」
「なんか、恥ずかしいというか、自分が、怖いの。。。イケナイ事してるんじゃとか、いろいろ考えちゃって不安になる。多分、お母さんが知ったら、びっくりするというか、絶対ダメって言うだろうし。」
「。。。。」
 ここでお母さんとか出てくる辺りが、、なんだか俺にはピンと来ない。自分の気持ちはどうなんだよ。自分が怖いってどういう意味だ?

「それに、あなたに触れられると、私、その、あ、会いたくて、我慢できなくなっちゃうの。」
 言い終えると、親に叱られた小さな子供みたいに、不安そうな目で俺の様子を伺って、目を伏せた。伏せた目からまた涙がポタポタ落ちて、ジーンズの生地に青い水玉模様を作った。

 で、夜中に会いに来て叱られて、抱き締めもせず返されて、こうなったわけか。俺は思わず天井を仰いだ。彼女は俺の想像以上に真面目で晩生で、といえば聞こえが良いが、要するに恋愛に関して幼稚なのだ。そして臆病になってしまうくらい、俺が好きなんだ。確かにこのままではマズい。でも、どうしたら良いんだろう。

< 743 / 874 >

この作品をシェア

pagetop