坂道では自転車を降りて
「多恵はね、なんていうか、昭和か、明治時代みたいな貞操感を持ってるのよ。それは家庭の方針というか、環境も少し影響してるんだと思う。学校の教科書以上の事を何も知らないし、知りたいとも思ってなかったみたい。恋愛のことだけじゃなくて、友達関係とか、趣味とか遊びや、勉強に関しても、自分で線を引いて、なかなか外に踏み出そうとしない。そう感じない?」
「そう感じる時もあるよ。でも、そうかと思うと、突然すごく大胆なことをしたりもするんだ。」
「そうね。やっぱりちょっとズレてる子だから。」
「実際問題、俺は彼女に触ってもいいの?ダメなの?彼女はどう思ってるの?」
「私は良いと思うよ。多恵は、困ってると言うか、怖がってるけど。」
げっ。やっぱり、嫌だったのか。
「あんたが嫌って意味じゃないよ。言ったでしょ。自分が親の貞操感からはみ出るのが怖いのよ。」
「ああ、なるほど。」
それでお母さんなのか。
「私も多恵とそういう話をしたことは、全くなかったから、あの子があなたに何を期待しているのかはよくわからない。でも、とりあえず反対するのは止めてあげる。その代わり、あんたがちゃんとコントロールして。大事にしてあげて。分かった?」
「分かった。」
「多恵もそろそろ良い子の殻を破るべきだと思う。恋をしたことを事をきっかけに、自分にもっと価値があるって、知って欲しい。もっと自分の気持ちを大事にして、自分がやりたいことをやったら良いと思う。キレイ事だけじゃ生きて行けないことも、知ったらいいと思う。ただ、」
「ただ?」
「相手があんたじゃねぇ。。」
「そりゃ、悪かったな。」
何にしても、北村さんの協力を取り付けられたのは大きい。彼女は今も安定したとは言い難いけど、こうやって2人で時間を重ねていけば、そのうち気持ちも安定して、成績だってきっと上向く。俺は今、目の前にいない彼女に思いを馳せて、包み込むように抱き締めてやりたいと思った。
もっと強くなりたい。もっと大きな腕で、いつでも彼女を守りたい。全ての不安から、全ての悪意から、俺が彼女を守ってやりたい。