坂道では自転車を降りて
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 高校最後の夏休み。受験勉強の合間の息抜きと称して、俺達はプールにいた。受験生が男女会わせて10人近く、それも市営プール。よく集まったものだ。
 田崎が中心になって声をかけたので、俺の友人というよりは彼女と親しい理系クラスの女子や男子が多く、俺は顔見知りではあるけれど、どちらかというと部外者だった。でも良い機会だし、俺の知らない彼女をまた発見できるかもしれない。

 誰が誘っても、彼女がなかなか首を縦に振らなかった理由は、適当な水着を持っていないからだと判明した。結局、俺と女友達達とでなんとか説得して連れ出した。
 確かに他の女子は花柄だったり、ぴらぴらだったり、どの子も可愛らしい水着を来ていた。そして彼女はというと、黒い長袖の上着を着ていて、中の水着が見えない。尻のあたりからちらりと見える水着は濃紺で、スクール水着なのかもしれない。でも、上は長袖なのに、下は白い太腿が見えていて、これはこれでなんだか。。

 あの上着はいつ脱ぐんだろう。そう思って見ていると、驚いた事に彼女は上着を脱がずそのまま水に入った。そういう上着らしい。だが、水から上がると黒い生地が身体に貼り付いて、かえって卑猥な感じがする。上着を着たまま水に入るなんてと思ったけど、同じことをしている人は結構いた。でもみんな日焼けを気にする子連れのおばさんだ。若いし可愛いんだから水着になれば良いのに。なんだか彼女がおばさんになってしまったような気がして、寂しく思った。

 彼女は渋っていた割には、来ればモジモジしたりもせず、いつも通り堂々としていた。水の中では他の女子と一緒にちゃぷちゃぷしていて、それなりに楽しそうだったけど、少し物足りなそうだった。水に慣れているのか、プールに入る時もためらいなくするりと降りてきゃあきゃあ言わない。プールから出る時も無言でそこに台があるかのようにするりと上がった。もしかしてもっとガンガン泳ぎたいんじゃないだろうか。

 流れるプールにプカプカ浮かび。25Mプールではビーチボールで遊び、プールサイドで談笑しながらお菓子を食べた。彼女はこういう雰囲気に慣れていないのか、少し緊張気味だったけど、女子に交じって楽しそうだった。
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