坂道では自転車を降りて
俺は運動はそれほど得意じゃないんだけどなぁ。でも田崎もどう見ても運動が得意そうな体形ではない。宮本がスタートの合図をするためにやってきた。
位置について、用意、ドン。
上手くも速くもない2人がプールの端を全力で泳ぎ始める。仲間が周囲の客を避ける。ほんの15秒。25メートルの勝負に俺は僅差で負けた。プールの壁にもたれて、ゼイゼイと息を吐いていると、横で田崎も苦しそうに喘いでいた。
「お前、体形の割に速いな。」
「小さい頃、スイミングスクールに行かされてたんだ。デブだったから。」
「ちくしょう。デブに負けた。」
「大野さんのあれ、脱いでもらってよ。下に水着着てるんだろ?」
「そんなの俺だって無理だし、嫌だよ。自分で言えばいいだろ。」
「だって怖いじゃん。」
確かに、露骨に嫌な顔をされるか、スケベ呼ばわりされるか、あるいは平手が飛んで来る可能性もある。
「下手したら、帰っちゃったりしない?せっかく楽しそうなのに、可哀想じゃん。」
言われて絶句した。そうだ。平手なんか飛んでこない。おそらく断って、その後は、急に消極的になって、輪から外れてどこかへ行ってしまったり、適当な理由をつけて帰ってしまうかもしれない。彼女にはそういう面もあって、そっちのほうが困る。なんでこいつの方が分かってるんだ。
動揺を隠せないままプールで雑談していると、しばらくして彼女がやってきて、ニコニコしながら、話しかけて来た。
「田崎くん。次は私と競争しよう。」
は?何を言ってるの?田崎も目を丸くしている。男子と女子で競争?ということは、かなり自信があるのかな。
「い、いいけど。」