坂道では自転車を降りて
言うと彼女は俺にタッチして、さっと逃げて行く。慌てて追いかけ、追いかけっこが始まった。もう少しで捕まえられそうになると、彼女は水に潜ってしまう。水の中の白い脚が目の前でゆらゆらと俺を挑発する。さすがにこれを掴む勇気はない。彼女は潜ればいつまでも上がって来ないし、泳ぎ始めたら、すごい速さでとても追いつけない。見失って途方にくれていると、今度は突然背後から抱きつかれたりする。捕まえたら捕まえたで、生身の身体があちこち触れ合ってしまって、鼻血が出そうだ。なんとかプールサイドに戻って、彼女が上着を着たら、なんだか疲れて、へたり込んだ。
「大して泳いでないのに。そんなに疲れたの?」
彼女はクスクスと笑った。あのな。
夕方の涼しい風のなか、家路をたどる。プールの後って何故か眠くなるよな。とか思っていたら、バスの座席で彼女が俺にもたれて居眠りを始めた。あどけない寝顔を眺めてついニヤけてデレっとしてしまう。触れ合った肩が熱い。今日は無理矢理連れ出しちゃったけど、楽しそうで良かった。塩素の匂いのする髪。2人で抱き合って泳ぐ夢を見た。って。夢見てる場合じゃねぇだろ。気付くと俺の降りるバス停だった。
「降ります。降ります。」
デカい声で運転手に声をかけながら、彼女を揺すった。彼女もビクッと起き上がり、2人で慌ててバスを降りた。彼女は既に乗り越しだ。バスの去った歩道で顔を見合わせる。彼女は涎を手の甲で拭った。
「ふっ。」
失笑が漏れた。
「へへへ。」
彼女もバツが悪そうに笑った。
「バカだな。俺達。乗り越したって歩きゃあいいじゃん。」
「慌てて降りて、バカみたい。」
2人でゲラゲラ笑った。