坂道では自転車を降りて
もうスパッと別れたいんですけど。
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 夏休みの最後の週、椎名に頼まれて演劇部の練習を見に行った。舞台監督になり、椎名は見違えるように頼もしくなった。多恵はこれを見越していたのだろうか。

 演劇部の演目については、引退を目処に俺は一旦手を引いた。現役が決めるべきだと思ったからだ。書けなければ無理に書く必要も無い。声がかかれば協力を惜しみたくはなかったが、一応俺は受験生の身だ。大した事はできないし、やるべきでもなかっただろう。

 引退した俺が練習をみるのは、なんだか変な気がしたが、何かあるらしいので、自習していた多恵と合流して、通し稽古を見せてもらった。結局、生駒さんの脚本をなんとか書き上げて上演にこぎ着けたようだ。だが、脚本が詰め込み過ぎなのもそうなのだが、何か纏まらない。演出が孤立しているように見えた。いや、役者同士も何か繋がっていない感じだ。練習不足と言うよりは、ノリが悪くて、やる気みたいなものが感じられない。淡々と練習をこなし、意見がほとんど出ない。
 見学後、演出の生駒さんと話した。少し感情的になっているようだったので、落ち着くように言ったが、あまり響いてなさそうだった。こういう時は部長の山田の出番のはずだが、あいつは何をやってるんだろう。
 多恵と話していた椎名が俺を呼んだ。この後、山田とも話してくれないかと言う。多恵は織田や1年生の作業を楽しそうに見学していたので、もう少し待ってもらう事にする。

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