坂道では自転車を降りて

「ねぇ、裏方組も一応、全員台詞を覚えることになってるよ。だから、当面の代役もできなくはないよね?」
多恵は言った。
「そうなのか?」
椎名も織田も明後日の方を見た。
「本当に覚えてるのは、高橋くんだけ?」
「俺達だって覚えてますよ。だいたいは。」
「だったら、明日から椎名くんが山田くんの代わりに入ってとりあえずの練習は続けられるよね。」
「いや、入るなら高橋が。」
「そうそう、高橋が。」
「だって音響はこれからが佳境だし、本番も音響の仕事があるでしょう?一年生は初めてなんだから。」
「いや、大道具だって、これからが佳境ですよ。」
「は?」急に多恵の目つきと口調が鋭くなった。
「大道具は役者の動きが出来上がる前に作れるじゃない。っていうか、大道具が早く出来ないと演出も役者も照明も細かい所が決まらないんだから、もう出来てなきゃダメでしょ。何言ってるの?」
うわ、容赦ない正論。すげー怖い。久しぶりに見た。武則天みたいな多恵。

「いや、冗談です。出来てます。出来てるよな?」
織田と椎名は焦ってしどろもどろになっている。これは、出来てないな。
「まあ、大道具は台詞や間を覚える必要はあまりないから、仕方ないんだけど。間が入ってればプロンプくらいはできるんだから、余裕があったら覚えておきなよ。あれ、今年は照明が2人いるから、あなた達は手伝わなくていいのか。」
「はい。今年も裏にそこそこ入ったので、照明は2人います。」
「だから俺達は手伝わなくていいの。な。」

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