坂道では自転車を降りて

椎名の弱り果てた声を聞いて、織田が助け舟を出した。
「先輩。まだ俺らの仕事を軽くみてるでしょ?椎名一人とられたら、裏だって回りませんよ。」
「織田にも負担が行くのは承知している。でもお前ならできるだろ?」
「そりゃあ、できますよ。」
「多恵に出来たんだからな。」
言ってからしまったと思った。多恵は倒れたんだった。織田はあきれたような顔で俺を見て、ため息をついた。

「まあ、大野先輩の下には優秀な後輩がいましたからね。」
「織田くん、写真の方はいいの?」
「よくないです。けど、しょうがないでしょう。」
「私、手伝おうか?」
「いえ、大丈夫です。大野先輩は心配しないでください。本当にヤバかったらこっちから声かけるし、他にもあてはありますから。」
「あ、そう。」
多恵は少し寂しそうな顔をした。

「多恵、君は美術部の他にクラスの展示もあるんだろ?これ以上勉強をサボるな。」
「はい。ごめんなさい。」
「織田は一年をフル活用しろ。見込みがあるやつなら、とことん負荷をかけてやれ。辞めない程度に。それと、山田も使え。部長なんだから。」
「ああ、そうか山田が使えるのか。」
「椎名がどこまでやれるか知らんが、山田が見えなくなれば生駒さんも少しは落ち着くだろう。最後には役を山田に戻せれば理想だが、部内が収まれば、そのままでもかまわんし。文化祭には出られなくても、コンクールもあるだろ。」
「今回の本は、人間関係のぶつかり合いだ。舞台の上の人間同士がよそよそしくしていたら、全然盛り上がらないし、しらじらしく見えるだけだ。感情をぶつけ合うくらいの気概で行かないと。」

< 785 / 874 >

この作品をシェア

pagetop