坂道では自転車を降りて

 やり始めると素人集団のクラスメイト達は、猛烈な勢いでヒートアップして行き、オカマ姉が1人増えて姉が3人になったり、舞踏会のダンスがヒップホップの本格ダンスになったり、一部の女子が本物のドレスを作り始めたりと、演劇部顔負けのパフォーマンスを見せ始めた。カボチャの馬車が現れるところなど、クラスの人数にモノを言わせた人海戦術で、演劇部には真似できない大掛かりなものになった。まさに学園祭だ。ほんの1ヶ月。受験勉強の合間の思い出作りに、俺達は夢中になって取り組んだ。

 彼女のクラスではダンジョン系の出し物をしていた。最初ほとんど関わっていなかった筈の彼女も、文化祭が近くなると装置作成やら壁に絵を描かされたりと、結局、誰より働かされているようで、心配なような、嬉しいような、モヤモヤした気分になる。彼女は楽しそうなんだが、、勉強は大丈夫かな。

 結局、俺は一度も彼女と同じクラスにはなれなかった。一度くらい同じクラスになりたかったなぁ。休み時間に女友達と話をしたり、教科書を整えたりする彼女の横顔を想像する。教室で目が合ったりしたら、どんな気持ちになるんだろう。授業中にはどんな顔をしてるんだろう。きっと背筋を伸ばして、真剣に授業を聴いているんだろうなぁ。あの凛とした横顔を好きなだけ眺めていられたら。しかし、同じ部で2年間も過ごせたのだから、欲を言えばキリがない。


 その後、演劇部では部全体で話し合った結果、本当に山田が降りて代役に椎名を立てて稽古を続けているらしい。不器用だが何に対しても一生懸命な椎名は、下手なりにいい味を出しているらしく、役者達の雰囲気が変わったらしい。生駒さんも落ち着いてきたと聞いた。考えてみれば一度稽古を見ただけで、今の演劇部の現状を知らない俺がとやかく言う事ではなかったんだが。でも、最終的には自分たちで決めたんだろうから、俺が気にする事でもないのかもしれない。

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