坂道では自転車を降りて
「泣け。泣いて忘れろ。」
泣けば忘れられるものだとは到底思えない。だが、それ以外何を言えば良いのか、俺には分からなかった。俺は失恋したことがない。本当に好きになった恋人を諦めた事は、まだない。そんな俺が、聞きかじっただけの言葉で慰めて、この娘の何を救えるだろう。
生駒さんは俺を睨みつけたまま頷くと、すごい勢いで泣き始めた。あぁ、女の子は失恋すると、こんな風に泣くのか。多恵の泣き方とよく似ている。小学生の頃とあまり変わらない。声を上げて涙を流して泣くんだな。
「よしよし。」
で、いいのかな。俺は戸惑いながらも、わんわん泣いてる彼女の頭を撫でてやる。ショートカットの黒髪は少し硬めで、多恵の髪とはずいぶん違う手触りだった。サラサラで、真っ直ぐで、コシがあって、これはこれで気持ちがいいな。
生駒さんが俺の制服を掴んで、胸に頭を押し付けてきた。ある意味自然なながれだったけど、これは、ちょっと困る。が、拒む事もできない。多恵とは違う女の子の匂いに酔いそうになる。顔を上にあげて、せめて顔だけでも離れようと試みる。あーあ。こんな所を山田や多恵に見られたら、他の部員に見られたら、困った事になるだろうなぁ。早く泣き止んでくれ。。
「うっ。うっ。せんぱぁい。」
「あー、よしよし。」
「今だけでいいんです。抱き締めて下さい。寂しいんです。悲しいんです。悔しいんですぅ。せんぱぁぁいぃ。。」
正直それは困る。嫌じゃないだけに、とても困る。が、結局、俺は言われた通りにしてしまった。仕方なかったんだと話せば、多恵は分かってくれる、よな。いや、話すつもりはないけどさ。。