坂道では自転車を降りて
「みんないろいろだな。」
飯田がそれらを見ている間に、もう一度織田の写真に目をむけると、机上にアルバムがあるのに気付いた。織田の撮った写真を集めたものらしい。級友や教師の日常の写真が入学当時から順に納められていて、俺の写真も何枚かあった。もちろん多恵の写真もあった。
「なんだ。こっちのほうがいい写真じゃん。」
飯田が横から割り込んで来る。
「へぇ。こういうの良いなぁ。おおっ。ここにも大野さんが。。へぇ。これって一年以上前じゃね?なんか、ちょっとあどけないっていうか。うわ。これ可愛いなぁ。焼き増しして貰えないかなぁ。」
彼女が紅い花の咲くツツジの植え込みの前でトカゲを手にして笑っている。無邪気な笑顔が眩しい。写真の彼女は少し幼くて、日付を見ると今年ではなく去年の春の写真だった。俺と付き合い始める前の彼女だ。織田はこんな以前から彼女の写真を撮ってたのか。この無邪気な笑顔は織田に向けられたものだったのだろうか。俺の知らない大野多恵を織田が知ってる。なんだか妙に焦る。彼女は今頃、どこで何をしているのかな。自分のクラスにいるのかな、それとも美術部にでもいるのかな。
「大野さんのクラス行ってみる?」
飯田が思いついたように言う。
「いや、俺は今朝一度行ったんだ。」
「だったら美術部に行こうぜ。大野さんが描いた絵、あるんだろ?」
「そうだな。」
一旦、体育館や階段教室での演目をチェックした。演劇部の舞台までは、まだ間があるので、美術部の展示室へ向かう。