坂道では自転車を降りて
「高校生活、楽しんでるな。」飯塚が言う。
「そうだな。」
「これ、お前だな。」
「え、どれ?」
「これ。後ろ姿がそっくりだ。」
演劇部の部室で上着を脱ぎかけの男子を指差す。
「へぇ、そうなんだ。」
そういえば、尻が好きだとか言われた気がする。俺の後ろ姿なのか。だからなんだというわけではないが。
「いいなぁ。俺の絵も描いてくれないかなぁ。」
「彼女は頼めば描いてくれると思うよ。」
「えっ、そうなの?」
「バレンタインにチョコくれた子達へのお返しに、似顔絵を描いたって言ってたよ。」
「えーっ。そうなの?だったら俺も彼女にチョコをあげたらよかったのかぁ。」
お前が彼女にチョコあげてどうするよ。飯塚を見ながら苦笑する。
「でも、なんで彼女がチョコ貰うの?」
「さあな。笑。」
そろそろ演劇部の上演時間だ。飯田と一緒に体育館へ移動する。
多恵を捜していると、飯塚が先に彼女を見つけた。なんと生駒さんと隣り合わせで座って、なんだか分からないけど話が弾んでいる。普段はおよそ女子らしくない2人だ。彼女達が話したら、きっと男同士が仕事の話でもしてるみたいになるだろうと予想していたのに、今日の2人は普通の女子みたいに、仲良くキャイキャイしゃべっていて、すごい違和感がある。何を話しているんだろう。気になるな。先日の生駒さんとのやりとりを思い出して、背筋に嫌な汗が吹き出る。生駒さん余計な事しゃべってないだろうな。