坂道では自転車を降りて

 彼女は自嘲気味に笑った。俺も君と親しくなる前には、君のことを地味で鋭くて怖い子だと思ってた。本当の君はこんなに可憐な女の子だったのに。でも、そんなことはもうみんな知ってる。知らないのは君だけだと何度言ったら分かってくれるんだろう。
「でも、神井くんに会えたから、いいの。」
 彼女がにっこりと笑う。俺は照れくさくなって、何も言えなくなってしまった。

「あそこまだ灯りがついてる。3年8組は何やってたのか知ってる?」
「テレビのバラエティ番組みたいなのを作って上映してたよ。」
「見たの?」
「見たよ。原のクラスだから。」
「あ、そうなんだ。」
「私、2組の映画は見たよ。なんとかレンジャー。」
「ああ、あっちも面白かったな。」

「なんか、楽しいね。」
「そうかい?」
 俺は楽しいと言うより、切ないよ。もう文化祭も終わりだ。楽しかった高校生活が終わり、卒業へのカウントダウンが始まる。
「うん。このままずっと、ここにいたいな。」
「ずっといたら寒いよ。」
「そうだね。笑」
彼女はクスクス笑って、再び俺に身を寄せてきた。

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