坂道では自転車を降りて
「おい。」
そっと布団を捲ると、なんと彼女が丸くなって眠っていた。こいつ、他人の部屋でリラックスし過ぎだろ。大胆と言うか図太いと言うか、母さんが見たら、呆れて腰抜かすぞ。
布団をまくっても彼女は起きなかった。スヤスヤ寝息も立てずに眠っている。彼女の寝ていた布団の中は、ポカポカとあったかそうで、この隣に寝たら、彼女の匂いとぬくもりで、すげー気持ちよさそう。思わず隣に潜り込みたくなるのをぐっと堪える。
「はぁ。。もう、なにやってんだよ。」
思わずニヤけて顔を覗き込んで、違和感に気付く。そっと布団に触れると少し湿っていた。この位置は涎じゃなくて涙、だよな。泣いていたのか。突然会いにきて、何があったんだろう。頬に影を作る長い睫毛が濡れているのがわかる。少し赤くなってる鼻。喘ぐように開いたままの唇。頬にかかる乱れた髪。髪の隙間から覗く可愛い耳たぶ。あぁ本当に、なんでこんな所で寝ちゃうかな。
さて、これをどうしたもんだろう。俺に会いにきたんだろうから、起こした方が良いんだろうな。起きた時には帰る時間だったりしたら、来た意味がない。
眠っているお姫様をお伽噺みたいなキスで起こしてやろうかとも思ったけど、胎児のように丸まって眠っている彼女の顔は、うつ伏せ気味だからか結構ブサイクで、キスって気分にはならない。
「多恵。」
名を呼びながら、優しく頬を撫でてやる。ふわふわした感触。耳たぶはぷるんと柔らかい。荒れた唇を親指でなぞると眠っている彼女の頬と口がピクピク動いた。ピンクの舌が唇を舐めてまた引っ込む。エロ可愛い仕草に、見てるこっちが恥ずかしくなる。うーん。困った。