坂道では自転車を降りて

お互い無言で並んで勉強していると、おもむろに彼女が声をかけてきた。
「ねぇ。」
「ん?」
「私のこと、好き?」
「ん?まぁ。」
設問の途中だったので適当に相づちをうっていると、彼女が黙り込んだ。

「ごめん。どうした?」
見る間に目に涙が溜る。
「どうした。多恵。」
「なんでもない。ごめん。私、馬鹿で。いつも、迷惑ばかりで。」
ドリルから顔を上げないで言う。泣いているのは明らかだった。

「君は馬鹿じゃないよ。」
俺は椅子から降りて彼女の隣に座る。
「馬鹿な子は嫌い?」
「君は馬鹿じゃないって言ってるだろ。ちゃんと間に合う。大丈夫だから。」
 自分で言ってて何の根拠もない言葉だと分かる。何が間に合って、何が大丈夫なのか、俺にも全然分からない。こんな言葉しか出てこない自分が情けない。
「しっかりしろ。不安になったって意味ないだろ。」
 彼女はただ泣きながら頷いて、問題集にかじりつき、それ以上何も言わなかった。

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