坂道では自転車を降りて
「多恵。ここが頑張りどころだ。そうだろう?な?」
教師に言われた言葉をそのまま伝える俺。今、それほど頑張らなければならないものなのか、本当の事はよくわからない。ただ、このまま納得のいかない結果が出れば、彼女の周囲の失望はもっと増すだろうし、彼女自身がいろんな事を後悔する。やれるだけやっての結果なら、少しは違うはずだ。
「みんな同じだ。俺も一緒に頑張るから。」
彼女は少し困った表情で俺を見た。
「何?俺、変なこと言った?」
「だって、神井くんが頑張っちゃったらと、私なんか手が届かない所まで行ってしまいそうで。」
「そんなわけないだろ。俺の方が君に置いて行かれないか必死だよ。」
俺は笑ったけど彼女は頷かなかった。彼女はこんなに何でも出来るのに、自分は馬鹿だと、本気で言ってるんだろうか。どうしてそんなにネガティブなんだろう。俺に君ほどの能力があれば、きっともっといろんなことチャレンジしてるのに。
「。。。。。。」
俯いた彼女がボソボソと何か言った。
「何?どうした。聞こえないよ。」
「抱き締めて。」
「分かった。抱き締めてやるから、ちゃんと聞こえるように言え。」