坂道では自転車を降りて
意図を計りかねて、上半身を起こして彼女と対する。
「本当に、今、したいのか?」
「したい。神井くんにしてほしい。」
彼女は俺の胸にすがりついた。震える身体。浅い呼吸。今にも叫びだしそうなその様子に、俺は我を忘れて彼女を抱き締めた。
何があったの?頼むからもう泣かないで。俺が君を守るから。ずっと傍にいるから。
「本当に?いいの?」
尋ねると彼女は頷いた。俺は無言で立ち上がり、彼女を立たせた。さっき脱いだコートを羽織りながら、机の中の有り金を全て財布に移す。ついでに鞄から赤い包みの入った紙袋を取り出してズボンのポケットにしまう。
「出掛けるから、コート着て。」
彼女は無言で頷くと、自分の荷物を鞄に詰め始めた。他に必要なモノはあれか。俺はタンスの奥に隠してある小さな箱をコートのポケットにねじ込んで、彼女の手を取り部屋を出た。
駅近くにあるのは知ってるけど、この時間に上りのバスがあるのかな。それに駅近くは誰に見られるか分からない。環状道路の方に歩いて行けば、あったような気がする。あそこまで歩いたらどれくらいかかるだろう。20分か、もっとかかるかもしれない。