坂道では自転車を降りて

 自室で悶々としていると、階下から夕飯に呼ばれた。いつ帰ってきたのか兄さんも食卓に着いていた。母さんはいつも通りの口調で料理を並べ、俺は無言で料理を食べた。さっさと食べ終わって自室に戻ろうとすると、デザートがあると言われた。コンビニのシュークリーム。俺の好物だ。

「あとで小腹が空いたら食べるよ。」
「理士。大野さんのことなんだけど。」
「俺も彼女もちゃんと勉強してるよ。」
どうでもいいだろ。イチイチうるせぇよ。と口に出しかけて飲み込む。
「ウチに来た時からちょっと様子がおかしかったの。あんたいつまでも帰ってこないし、リビングにいても抜け殻みたいにぼーっとしてるから、あんたの部屋で勉強するように言ったんだけど。あの子、大丈夫なの?」

 感情を隠すのが上手いはずの彼女が、他人の母さんが分かる程、態度がおかしかったのか。結局、ケンカ別れのように帰してしまった。大丈夫なんだろうか。あらためて、途方にくれる。

「わからん。」
「何かあったの?」
「。。。。あったのかもしれないけど、俺にも分からない。」
「そう。でもそういう時は、お前がしっかりしないと。一緒になって混乱してたらダメでしょう。しばらく会わない方が良いんじゃないの?間違いだけは、おこさないでよ。」
 しばらく会わないなんて。。彼女は俺のせいで混乱して、それを取り戻そうと必死で頑張ってるのに。そんなことが出来る訳ないだろ。

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