坂道では自転車を降りて
夜寝る頃になって、電話がかかってきた。
「今日はごめんなさい。私、どうかしてた。」
「だな。俺も一緒になって、馬鹿な事するところだった。ごめん。」
2人とも、それ以上の言葉が見つからなくて、ただ無言でお互いの息づかいを聞いていた。
「じゃあ、おやすみなさい。」
彼女はそういって、電話を切ろうとした。これだけで、君は大丈夫なの?俺に何かできることはない?彼女に何か伝えなくちゃと思うけれど、上手く言葉にならない。考えていると、電話は俺の返事を待たずに切れてしまった。
「え?」
普通、ここで切るか?慌てて電話をかけ直す。
「なに?」
「いや、大丈夫かなって。」
「大丈夫だよ。笑」
そんな風に笑うなよ。哀しくなるから。
何か言ってやりたいけど、胸が詰まってうまく言葉がでてこない。
と突然、俺の口が勝手にひらいた。
「俺は多恵が好きだから。何があっても、君が馬鹿でも好きだから。」
思わず口から出た言葉に自分で驚いた。そうだ。これだ、彼女が欲しかった言葉は。