坂道では自転車を降りて
彼女の家の前に着くと、彼女は路上で俺を待っていた。
「なんで?俺が来るってわかったの?」
「電話、繋がりっぱなし。」
「えぁ!本当だ。」
「ありがとう。」
言いながら彼女は俺に抱きついた。俺も彼女を抱き締めて、いっぱいキスをした。
「本当の君を俺はもう知ってる。真面目だけが取り柄で、大事な事は何も知らないくせに、偉そうで意地っ張りな君が、いつも背伸びして賢いフリしている、でも本当は弱くて泣き虫な君が、俺は大好きなんだ。これからもずっと君をみてる。だから、大事なのは結果じゃない。多恵。がんばれ。」
「うん。。。。うん。」
彼女は言葉がでないみたいで、俺に抱きついたまま何度も頷き、俺はただ優しく抱き締めては頬に額に口づけた。
「ごめん。寒いな。もう家に入って。風邪をひいたらたいへんだ。」
「そうだね。神井くんも、気をつけて。」
「あぁ。気をつけるよ。」
「おやすみ。」
「おやすみ。」
名残惜しそうに一歩下がった彼女を見ながら、俺は自転車に跨がった。どうせ彼女は俺が見えなくなるまでは、ここにいるだろうし。
「また、明日。学校で。」
「うん。また明日。」
ペダルに足をかけると、「神井くん。」と呼び止められた。
「大好き。」
寒さで震えながら、満面の笑顔で言う彼女に、俺は頷いて、自転車を漕ぎだした。