坂道では自転車を降りて
そういうカラクリだったのか。11月に入った頃、俺の所に生駒さんが突然、脚本を持って押し掛けてきた。暇な時に読んでコメントして演劇部に戻して欲しいと言った。クリスマスの脚本はもうとっくに決まって、稽古が始まってる筈だし、どう読んでも一人芝居の脚本だ。何が起こっているのかと戸惑った。コメントを記入し演劇部へ行くと、椎名が事情を説明してくれた。脚本は生駒さんが原案だが高橋がずいぶん手を入れていると言う。どおりで以前の本と印象が違ったはずだ。高橋にそんなことが出来たとは初耳だった。誰もがいろんな才能を隠し持っているものだ。
「もしかして多恵も事前に脚本読ませてもらったりしたの?」
「全然。こんなことしてるのも宣伝聞くまで知らなかった。神井くんは?」
「よぉ。」
後ろから声をかけてきたのは原だ。
「よぉ。」
「原くん、ひさしぶり。調子はどう?」
「まあまあだな。それにしてもあいつら、こんな面白そうな事やるなら、ひと言声かけてくれたら、俺も宣伝くらい協力したのに。」
「原くんも知らなかったの?」
「何かやってるのは知ってたけど、結局あいつら何も言ってこなかった。薄情なやつらだよなぁ。最初から自分等だけでなんでもできてたみたいな顔して。」
「まあねぇ。でも私も去年、鈴木先輩に一度も連絡とらなかったかも。先輩の方は何度か部活を覗きに来てくれたのに。」
「あははは。大野さんらしいや。可哀想な鈴木先輩は今頃何してるだろうねぇ。」
「そういえば全然、知らないな。先輩、大学で何してるだろうね。」
「あははは。本当、笑えるなぁ。」
「何?そんなに変かな?薄情すぎる?」
「いや、いいんだよ。大野さんはそれで良いんだ。な、神井。」
「いやまあ、引き継ぎが上手く行ってたってことだろ。良いんじゃないか。」