坂道では自転車を降りて

 階段教室には30人強の客が既に集まっていた。体育館での公演では他の部の客も含まれるので100人以上、時には300人近い客が集まるが、今日はこの公演だけのためにここに来るのだ。50人も集まれば大成功だろう。

「ここで劇をやるのって初めてだよね。ここ教室が縦長だし、よく見たら壁が集音材になってる。声が後ろまで届くのかなぁ。どうするんだろう。」

 俺だったら実際に演じてみるまで気付かないだろうしかけに気付く。理系だなぁ。山田が集まり始めた客になるべく前に詰めて座るように声をかけているのはそのためか。
 俺達が引退した後も次々と新しい事にチャレンジし実現していく後輩達。本当に嬉しくて胸が熱くなった。

 生駒さんの一人舞台は、一般の生徒がどう感じたかは微妙な内容だったが、なかなかチャレンジングな試みで、俺達は大満足だった。
「生駒さん、本当にすごいなぁ。みんなも惜しみなく協力してあげてて。素敵だったねぇ。」
 多恵はいたく感動したらしく、しきりに生駒さんと後輩達を褒めていた。

「生駒さん、美人だし。賢いし。意志も強くて。羨ましいなぁ。」
 その生駒さんにだって、沢山の挫折と孤独があって、君が羨ましくて、君の事を妬んでズルいと言っていたこともあった。君には君の挫折と苦労がある。2人の女子のそれぞれの境遇を知る俺に、その言葉は感慨深いものがあった。
 誰もが同じように挫折と孤独を抱えて生きている。君や彼女にあったように、きっと原にも、織田や椎名や山田にも、北村さんにもエリちゃんにも、飯塚や沼田にもあるに違いない。はて、俺にもあったのかな?

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