坂道では自転車を降りて

「はじめるよ。」
 小さく彼女の声がして、耳掻きが耳孔に侵入する。頬や耳に優しく触れる何かが、くすぐったい。ちょっと怖いけど、痒い所がコスコスとこすられて、すげー気持ちいい。あぁ。本当にこれは。なんか、いろいろ大事なものが、こぼれ落ちるというか。。。骨抜きってこういう事を言うのかも。うわ。うわ。

 しばらく耳を掃除していた彼女が、詰めていた息をほぉっと吐いた。また耳がひっぱられる。あぁ、気持ちいい。
「もう少し奥まで見えるけど、痛いかな。どうする?」
「今日はやめとくよ。」
これ以上、骨抜きにされたら立てなくなる。
「じゃあ、反対の耳ね。」
「ん。」
 って、、、これ反対向きって、彼女の下腹部に顔を向けるのか?いや、そんな。。俺が困惑していると、彼女は立ち上がって場所を変えた。あ、そうか。彼女がベッドの反対側に座れば良いのか。
 反対の耳はもっとダメだった。彼女の指が耳や頬に優しく触れるだけで、猛烈にくすぐったくって仕方がない。
「まて、ちょっと、まて。」
「まだ終わってないよ。残ってる。」
「いや、もうくすぐったくて、耐えられない。」
「だめだよ。片方だけなんて。」
無理矢理、反対の耳も同じように掃除されて、すっかり骨抜きにされた俺の至高の時間が終わった。

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