坂道では自転車を降りて
行こう。今から。
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 3月中旬のその日、俺達は待ち合わせて、進路の報告のため学校へ行った。卒業式が終わり、私服で登校すると、もうこの学校の生徒ではないのだということが、実感として湧きあがった。俺と彼女も、もう同じ学校でも同じ部でもないのだ。

 卒業式が執り行われた先週の時点では、まだ何割かの生徒の進路が決まっておらず、後期日程に望みを繋ぐものは、まだまだ受験の真っ最中だった。式典は淡々と進み、大した感慨もなくあっという間に終わった。俺は演劇部、彼女は美術部へ顔を出し、別々に帰宅した。
 
 俺は、なんと大本命の私立に受かってしまった。4年間、私立の学費を捻出してもらうのは心苦しいが、親は一緒に喜んでくれた。春から晴れて大学生だ。彼女も俺の予想通りと言うべきか、C判定だった公立に合格した。父親の母校らしく、彼女の親はたいそう喜んだらしいが、彼女自身は少々戸惑っている様子で、入学してからが大変だと不安そうな顔をしていた。

 職員室への報告を早々に終えてしまうと、2人で部室を覗きに行った。引退してから一年、部室はそのままのようでいて、どこかよそよそしい感じがした。彼女を抱きしめながら外を眺めた窓、先輩と彼女の会話を立ち聞きしたドアの前、彼女の手を洗ってやった水道。すべてそのままだったが、俺たちだけがいない。制服を着ていない俺たちは別世界から来た人間のように思えた。授業を受ける1、2年の教室の前を避けながら、図書室へも行ってみたが、授業中だからか鍵が閉まっていた。階段教室前の廊下の暗幕が、当時のままそこに垂れ下がっていたが、午前の光の差す少し冷たい廊下は妙に静かで緊張感があり、昼休みの廊下の静けさとは違っていた。
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