坂道では自転車を降りて
途方にくれている俺をみて、彼女は少し考えたようすで、また言った。
「じゃあ、羊の絵を描いて。」
羊??
「ねぇ、羊の絵を描いて。」
突然しゃがみ込み、下から俺を見上げて、頚を傾げてニコニコと言う。気づいた俺はスケッチブックを受け取り、帽子のような、ゾウをこなしているうわばみの絵をかいた。
「違うよ。ゾウをこなしているうわばみなんかじゃなくて、羊の絵を描いてよ。」
俺は次にヘタクソな羊を描く。
「このひつじは病気だよ。違うのを描いて。」
彼女はわざとらしく駄々を捏ねる。
俺は笑いながら、箱の絵を描いて言ってやる。
「この箱の中に、君の欲しい羊が入ってる。」
「わぁっ、ありがとう。」

何をやってるんだか。彼女に限らず、演劇部のやつらはこういったドラマごっこをよくする。たいていは流行のドラマか映画だ。中川などはクオリティも半端ない。だが、「星の王子様」は彼女の幼くも見える純粋な雰囲気と相まって、とても新鮮だった。
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