坂道では自転車を降りて
別世界をさまよい疲れた俺達はここを出ることにした。校門を出るとき、自然と2人で校舎に向かって頭を下げた。さよなら母校。楽しかった高校生活。
振り返った母校の木々は、明るい陽射しとは裏腹に、深緑色の暗い葉と枯れた枝ばかりで素っ気ない。乾いた枝についたぶくっと膨らんだ木の芽は、まだ緑の若葉を隠したまま、俺達には見せてくれないらしい。それは春に入学して来る新入生のためのものなのだ。
温かな巣から追い出されたひな鳥のような気分で、駅へ向かう道を俺達は言葉少なく歩いた。もうこの道を制服を着て歩く事もない。俺がつい先日まで毎日着ていたあの制服を着る事は、二度とないのだ。ふと隣の彼女に目をやる。春色の私服を着た彼女は、少しもの憂げな表情で俺を見た。制服が誰より良く似合っていた彼女。もうあの姿を見る事はない。
彼女が心細そうな表情で、俺の手に触れた。大丈夫だ。俺達はこれからも一緒だし、新しい世界の素敵な体験が俺達を待っている筈だ。顔を上げて歩けばいいんだ。
彼女の手を握ると、冷たい彼女の手の感触が、俺にあの夜の2人を思い出させる。後夜祭の夜、校舎の屋上で交わした約束。
そうだ。春になったら、進路が決まったら、一緒に踏み出そうと約束した。君の殻を壊して、君のすべてを受けとめて、君ともっと深く繋がる。そう約束したはずだ。