坂道では自転車を降りて
「もう少しで、食べ終わるから。ちょっと待ってて。」
彼女は食べるペースを速めた。ごめん。早く神社へ行きたい訳じゃなかったんだ。でも、どちらにしてもお参りは外せないだろう。だったら、お参りが終わってから、もう一度考えることにしよう。
彼女から視線を外して外の通りを眺める。駅前の路上には沢山の人が行き交っていた。平日の昼間だ。春の陽気の中で、観光客とおぼしきおばさん達がやたらたくさん歩いている。みんな楽しそうだ。
妙齢のお年寄りに混じって、珍しく同年代の男がこちらへ向かって歩いて来るのをなんとなく眺めていた。地元の人かな。細身の身体に小さな頭、洗練されたファション。昨日までは制服が主力だった俺も、大学へ通うなら少しはファッションに気を遣って、服を買いそろえる必要があるだろうな。あんな風にはなりようがないが、多少は努力しなければ。でもまあ、通い始めて、様子を見ながらだな。。
ぼんやり考えていた俺は、近づいてきたその男の顔をみて目を剥いてしまった。川村だ。思わず視線をそらし彼女を見ると、彼女はどうしたの?と言った顔で俺を見た。俺は緊張の色を隠すこともできず、店内に視線を泳がせた。川村が店の外の歩道を通り過ぎて行く。彼女は怪訝な顔で店内や外をくるりと見回して、また俺を見た。そしておもむろに視線を下げて、また懸命に食べ始めた。後ろ姿が視界に入ったハズだが、ヤツだとは気付かなかったのか。