坂道では自転車を降りて

 最後のポテトを口に放り込んで、ジュースで流し込むと、彼女は俺をみてにっこり笑った。
「いいよ。行こう。」

 土産物屋や小間物屋の並ぶ神社への道を、彼女は珍奇な土産物や服や鞄を見ながら楽しそうに歩いた。俺はなんだか落ち着かない。川村はここで何をしていたんだろう。べつにどうでもいいんだが。あまり見られたくないシチュエーションだ。こんなところ、観光以外で来るようなとこじゃないし、ヤツは一人だった。どこか他所へいったに決まってる。分かっていてもなんとなくキョロキョロしてしまう。路地裏のご休憩施設の看板が目に入って、ちょっと焦る。神社にお参りだって立派なデートだ。

「神井くん、ポケットから手を出して。」
「え?」
「手。ポケットに入れて歩いていると、転んだ時に危ないよ。」
「ああ、ごめん。」
「制服の時は手を入れたりしないのに。そのジャンバーだと手を入れちゃうんだ。」
「そうだな。入れやすいんだよ。ここ。」
「でも危ないよ。」
 彼女って時々、言う事が母親みたいだよなぁ。世話やきって程でもないんだが。多分、椎名や織田に対しても、彼女は同じように注意するんだろう。弟がいるせいか。

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