坂道では自転車を降りて
「ほら、あれが美術館。」
神社の大鳥居をくぐると彼女が指差した。げげ、美術館、神社からこんなに近いのかよ。お参りが済んだら美術館に直行以外に選択肢のないルートじゃないか。やっぱり今日は大人しく、美術館へ行くしかないのか。
神社の賽銭箱の前で、2人で畏まって柏手を打つ。ぱんぱん。
(おかげで合格できました。ありがとうございました。これからも楽しい大学生活が送れますように。彼女とずっと仲良く過ごせますように。えっと、それからそれから、あとは、事故に遭ったり、騙されたりしませんように。大学でも良い出会いがありますように。)
うーん。こんなもんかな。。
俺が顔を上げると彼女が俺を見ていた。にっこりと微笑んで、並んで境内から下がる。
「多恵は何をお願いしたの?」
「何言ってるの。今日はお礼に来たんでしょ?」
「そうだな。」
彼女は今日は本当にお礼だけをしに来たんだ。なんか真面目と言うか、変な子。
背の高い木の並ぶ神社の境内。桜はほころび始め、スギ花粉がすごいだろうと今朝のニュースで言っていた。海からの風はまだ冷たいが、陽射しはもう力を持っている。樹の根元に生えたスミレが花を咲かせているのを見つけ、彼女が携帯で写真を撮る。樹の根元の枯れ葉を脚で突ついたり、ウロを覗き込んだりしている。
「何をしてるの?」
「テントウ虫探してるの。こういうところで集団越冬してるハズなの。」
「ふーん。」
四季を感じる心を持ち、自然の楽しみ方を知っている。健全で健康な俺の彼女。
「春だね。」
「春だな。」