坂道では自転車を降りて
春、別れと出会いの季節。俺と彼女は別々の学校へ進学する。
これからは、どのくらいのペースで会えるのかな。俺は電話が苦手。彼女はメールが苦手。彼女はハガキをくれるけど、俺は返事を出さない。自宅が近いのだけが救いだ。新しい生活、新しい友人。学ぶ内容も生活時間も違う彼女との関係はこれからどうなるんだろう。彼女はこれから、俺の知らない場所で、俺の知らない友達と、俺の知らない事を一緒に学ぶ。しかも大半が男だ。俺は我慢できるのだろうか。
「・・・くん。聞いてる?」
「えぁ。ごめん。何?」
「神井くん。さっきからなんか変。本当は今日、都合が悪かった?」
「大丈夫だよ。どうして?」
「昼ご飯の時も、いつも煩いくらいにいろいろ話してくれるのに、今日はほとんどしゃべらなかった。何考えてたの?」
ああ、それで俺が先に食べ終わったのか。
「やっぱり神社とか美術館は嫌だった?」
「いや。違うんだ。えーっと。」
彼女の顔が微妙に険しい。もしかして怒ってる?
「ごめん。なんでもないんだ。本当に。」
彼女は小さくため息をついて、言った。
「この後、どうする?」
「え、そこの美術館、行くんだろ?」
「美術館はもういいよ。神井くんはどうしたいの?もう帰る?」