坂道では自転車を降りて
「ねぇ、本当に大切なものは目に見えないんだ。よ。」
最後の「よ」のところで、俺の顔を覗き込む。表情豊かに大きく開いた目が可愛らしい。
「だからこそ、形が欲しくなる事もあるんだけどね。」
スケッチブックに描いた俺の絵を見ながら、彼女は笑った。そんな台詞あったかな?

 ふと、イメージが浮かぶ。青年と少女。いたわり合い思いやる二人に訪れる試練。大切なものは目に見えないという言葉と裏腹にモノにすがる心。約束の意味はそれぞれ変わって行く。

 星、月、空、花、美しいと知りながら、見上げることを忘れてしまう。いつでもそこにあるから、いつまでもあるはずだから、同じ月は二度と見られないことに気付かない。星は月は空は変わらずある。変わって行くのは人だ。俺はイメージを書き留めた。
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