坂道では自転車を降りて
「大野さんを送って来たんだ。今、付き合ってる。」
川村はまっすぐ俺の顔を見て、視線を外さずに言った。
「そう。」
心臓を掴まれた思いだった。俺は平静な顔を保てているだろうか。
「さっき両親にも会わせてもらった。」
「。。。。。」
「何があったか知らないけど、お前には2度と渡さない。」
「。。。。。」
突き刺すような視線が痛い。
「もう、会わないで欲しいんだ。」
「。。。。。ああ、そんな予定はないから、安心していいよ。」
自分の声がどこか遠くから声が出ているようだった。
「それだけ。じゃあ。」
川村は足早に店を出て行った。最後まで視線を交わす事ができなかった。
彼女に新しい男が出来るのは、当然のことだった。そうでなくては困る。川村ならきっと、大切にしてくれるだろう。しかし、このやるせなさはなんだろう。俺にはもう何もできないというのに。
俺は店を出て駐車場へ向かった。川村の車は駐車場を出るところだった。車の前に立ち、車を止める。川村は窓を開けた。
「なに?」
睨まれる。見覚えのある目つき。
「彼女を、、、頼むよ。俺、たくさん傷つけた。もう、ダメなんだ。だから、頼む。」
「だったら、もう会わないでくれ。それだけだ。」