坂道では自転車を降りて

 川村は車を発進させた。俺はただ、赤いランプを見送った。意味のない事をしたと思う。きっとあいつは気を悪くしただろう。でも言わずにいられなかった。未だにこんなに引きずっている自分が情けなかった。
「ほんと、格好悪いな。俺。」

 月が夜空を照らしていた。あの日も月が輝いていた。俺ではなく弟の自転車の後ろに乗って遠ざかって行った長い髪の人。もう会えない彼女を思うと、空っぽだった胸が、押しつぶされて悲鳴をあげる。幸せになって欲しい。そう思っていたはずなのに、いまだに思いが溢れて、焦がれて、嫉妬に狂いそうになる自分がいる。こんな自分勝手で弱い心など、いっそ握りつぶして壊してしまいたい。でなければ、この頭を砕いて、全ての記憶を亡くしてしまいたい。全て忘れてしまえたら、どんなに楽だろう。
 行き交う車のライト。人気の無い歩道で彼女を抱き寄せた夜が、打ち寄せては引いて行く。店の明かりの中へ戻りたくない。このままこの暗がりに融けてしまいたかった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

おまけはここで終わりです。

では皆様、また会えましたら。


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