烏藍婆那
「八郎。あんた、やっぱりおばーちゃんのこと知ってんのね。何、恋人とか?」

『何を言う。そんなものではない』

 ふい、と視線を外し、八郎は言う。
 何となくそれ以上突っ込めない雰囲気だ。

「つかさ、あんたあっちの世界の人(というかモノ)なのに、何朝っぱらからばっちり姿現してんのよ」

『それは言いがかりというものよ。わしらには昼も夜もない』

 げ。
 じゃあ『じゃないほう』は、四六時中その辺うろうろしてるってこと?

「大体さぁ、何で今年に限ってそんなものが見えるの。今までそういう体験、したこともないのにさ。あんたが何か、こっちに来たいとか思ったりしたんじゃないの?」

『そんなことは……ないと思うが』

 何故か若干自信なさげに言う。

「人は死んだら全部忘れるってのに、あんた、そんな感じでもないし、おかしいじゃん」

 あれ、だったら何で、毎年お盆にこういうことするんだ?
 死んだら全部忘れるんだったら、誰も帰ってきたりしないんじゃないの?
 人って結構矛盾したことしてるよね。

 まぁほんとに帰ってきたりしたら、それこそ座布団足りないし、それ以前に怖いけど。
 大体死んでもずっと忘れないなんて、いろいろしんどいよね。

 ふと、八郎の姿に違和感を覚えた。

「ねぇ、八郎っていくつなの」

 喋り方は古臭いけど(自分のこと、わしって言うし)、見た目はそんなに年寄りには見えない。
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