烏藍婆那
『わしは、さほど気にしていないつもりだったのだが。というか、ご本人を見たから、気は晴れたはずだ』

「え、何。どういうこと?」

『紗枝殿だ。成長した姿を見たかった』

 呆気に取られた。
 祖母の知り合いってことか。

 つか、八郎の穏やかな表情ってば。
 イケメンはほんと、ちょっと目尻を下げたり口角を上げたりするだけで絵になるね~。

 て、ちょっと待て。
 この表情といい、先の言葉といい、どういう関係?

『関係か。父親だ』

 心を読まれるというのは、わざわざこっちから訊ねなくてもいいから言いにくいことも聞けてしまうという利点もあるが、心の準備が出来ないという欠点もある。
 ていうか、八郎、素直にさらっと答えすぎ。

『紗枝の母君と、結構歳は離れていたがな。紗枝の母の家が、わしの剣の道場だった』

「いやでも、確かひぃおじーちゃん、八郎とかいう名前じゃないし」

 言うと、八郎はまた、ふ、と笑った。
 ちょっと、暗い影が落ちる。

『この姿を見ればわかるだろう。わしはこの歳で死んだ。母君が紗枝を身籠った直後だな』

 何ということでしょう。
 おばーちゃんは、ひぃじーちゃんの子じゃなかった!
 おばーちゃん、知ってんのか、この衝撃の事実。

『こらこら。そうとも限らんのだぞ。わしは母君と一緒になったわけではない。紗枝の母君は……わしの、兄と一緒になった』

 最後のほうは、悲しげな顔になる。
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