烏藍婆那
『でも一度だけだ。だから、はっきり紗枝がわしの子だとも言えん』

「無理やりじゃないでしょうね」

『そんなことはせん。母君は、わしを憐れんでくれたのだと思う。家督を継げるわけでもなし。剣で身を立てようとしても、病に侵されていては、それも出来ん。唯一愛した女子は兄の婚約者になってしまった。わしに何が残るというのだ』

「ひぃばーちゃんとは、そんなに昔からの知り合いだったの?」

『歳は離れておったが幼馴染であった。わしは幼い頃より剣で身を立てるつもりで、道場に通っておった故』

 なるほどね。
 小さいときからずっと好きだった人なわけね。
 それにしても。

「自分の子かどうかもわからんのに、それをずっと気にして彷徨ってるわけ?」

 一回だけでも出来るかもだけどさ、それこそわかんないじゃん。
 DNA鑑定でもする?

 つか、ひぃじーちゃんのDNAなんてないしな。
 八郎も多分、この状態から採ることは出来ないだろ。

 つらつら考えていると、悲しげだった八郎が、ふ、と笑った。

『夢だな。もしも母君と所帯を持っていたら、このような子が生まれておった、という。わしの子かもしれん、というのは、ただの一度であってもわしの希望の結晶だ。何も残せなかったと思っておったが、もしかすると、わしの子が生きているかもしれぬと思うと、その子を見てみたい、と思うであろ』
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