烏藍婆那
 それについては、わかんないよ。
 そんな大層な気持ち、現代人にはないもの。

 や、もし私が死病に侵されてたら、そんな風に思うのかな。
 生きた証を残したいっていうのは、ちょっとわかるかもしれない……。

「世に名を残せない一般人が残せる唯一のものは、子供だものね」

 どういう経緯で八郎とひぃばーちゃんが結ばれたのかはわかんないけど、ひぃじーちゃんが知らないなら、それはそれでいいかな。

「あんた、あっちでひぃじーちゃんに謝んなさいよ」

『謝るもなにも、残念ながらわしはもう、兄の名も覚えておらん』

「何それ! 薄情!!」

『大事なものから忘れて行く。それが死なのだろう。母君の名も、真っ先に忘れた』

 何ということでしょう。
 そんな、大事なものの記憶がなくなるなんて。

『変に執着を残さんためだろう。わしのようになっては困るだろ』

「それはそうかも」

 あっさりと納得する。
 でも子のことは覚えてたんだね。

 ひぃばーちゃんを好きだったっていう気持ちも覚えてる。
 不思議だな。

『それがあったから、わしはずっとこの姿を保っておったわけだな。明日は送り火か。多分やっと、全て忘れる』
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