烏藍婆那
「何これ……。何か書いてある。……菅谷(すがや)……八郎重時。二十四。て、これ八郎?」

 ぱ、と後ろを見た私は、ぎくっとした。
 後ろから覗き込んでいる八郎の目が、見たことないほどの鋭さを帯びている。

 昔の人は現代人よりあらゆる感覚が優れてたんだろうけど、眼力も然りなんだ。
 射抜くっていうのは、こういう視線を言うんだな、ていうほどの凄い目に、私は動けなくなった。

 八郎はそのまま、己の名が書かれた紙が挟まっていたページに目を落としている。

『……沙希』

 不意に、八郎の口が動いた。
 それに、固まっていた身体が解凍されたように、どっと力が抜ける。

「な、何? あ、これ、八郎じゃん。ちゃんと八郎の名前も、入れてあったんだね」

 良かったじゃん、と何が良かったんだかよくわからないまま言いつつ、私は八郎の名が書かれた紙を、挟んであったページに戻した。
 そしてふと、そのページに書かれた名前に目をやる。

 え?

『そろそろ送り火の時刻だ』

 漢字ばかりの筆字をちゃんと読み終える前に、背後で冷たい空気が動いた。
 振り返ると、八郎が蝋燭の火を見つめている。

 私は過去帳を置いて、腰を上げた。
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