烏藍婆那
『沙希』

 優しい声。
 八郎の冷たい手が、頬に触れる。

『会いたかった』

 あの、過去帳の名前は。
 八郎の名前が挟んであった、あのページにあった名前は。

『今度こそ、誰にも奪われないうちに』

 菅谷 沙希。
 ひぃばーちゃん、八郎を愛してたの。

 八郎の冷たい腕が、私を包む。
 頬に当たる胸は、まるで骨のようで。

 さっきまで聞こえていた蝉の声も、ふと気付けば聞こえなくなっていて、変に周りは暗くって。

『今度こそ、絶対に離さない』

 八郎の声が、やけにはっきりと頭に響き、闇がねっとりと絡みつくように、私の意識を奪って行った。



*****終わり*****
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