烏藍婆那
『全くもって、何と失礼な小娘なんだか。実体があったら斬り倒しておるわ』

 腕組みをして文句を垂れているのは、やっぱり侍。
 でも総髪だな。

 てことは、戦国時代の人ではないってことか。
 江戸でも丁髷の人は、いたみたいだけどね。

 考えてみりゃおかしな話だ。
 月代ってのは、兜が蒸れないためのものなんだから、甲冑なんか必要ない江戸時代には、もう必要のないもののはずなのに。

 大体今の時代、男はいかに禿げないかに心を砕くってのに、昔の人はわざわざ大事な髪の毛を剃っちゃってさ。
 てことは、昔の人には禿げっていなかったのかな。

 大抵皆、前髪が後退するよね。
 だったら剃る必要がなくなるだけじゃん。
 返っていいんじゃないの?

 いやでもサイドから来る人もいるよね。
 そういう人は、月代が広くなるってことかな。

『何を考えておる。わしの時代は総髪と髷が半々ぐらい。高い身分の者は髷が必要だろうがな。生憎わしは、そこまでの家柄ではない』

「そうなんだ。つか、あんた、うちのご先祖ってこと? うちはそんな御大層な家ではないってことかい」

『ああ。先祖が言うのだから、間違いないわい』

 何かむかつくけど、まぁいい。
 そもそもそんな良いお家じゃないってことぐらいわかってるし。
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