烏藍婆那
「ねぇ、あんた、名前は?」

『……お前は本当に、礼儀というものがなっとらんな』

 呆れたように言うご先祖が、どかりと胡坐をかく。
 人ん家で、そんな態度を取る人に言われたくないが。

「人に名を聞くときは、まず自分が名乗れってか?」

『沙希だろ』

「何で知ってんの。ご先祖様は、何でもお見通しなわけ?」

『……先程紗枝(さえ)殿が、そう呼んでおった』

 ?
 何か、一瞬ご先祖様の空気が変わった?
 表情が、何と言うか、切なそうな。

「おばーちゃんのこと知ってんの」

 紗枝というのは祖母の名前だ。
 さらっと祖母の名前を言ったことで、この人というかモノというかは、祖母辺りの時代の人なのかと思ったが、でもそれにしちゃおかしい。

 いくら祖母でも、江戸時代の人間ではないもの。
 その親とか?

「そっか。過去帳を見ればいいんだ」

 ぽん、と手を叩くと、ちらりとご先祖が私を見た。

『この家の過去帳には、わしは載っておらんだろう』

「は? 何でよ。つか、関係ないんだったらとっとと帰れ!」

 再び手を振り被る。
 慌ててご先祖が、私の手首を掴んだ。

 冷たい!
 ぞわわ、と背筋を悪寒が走った。
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