甘い恋の賞味期限
「千世さん、良かったらパーティーに来ない? 千紘も来てるし、喜ぶはずよ」

「え? い、いえ、結構ですっ」

 あからさまに拒否すれば、薫子が少し驚いたような顔になる。
 その顔を見たら、一瞬だけ申し訳ないと思ったが、絶対に行きたくはない。パーティーなんて、庶民の自分には敷居が高すぎる。何よりも、専務の知り合いだと思われたくない。

「お母さん。彼女が困ってます」

「けど、千紘が喜ぶわ。ダメ、かしら?」

 史朗が諦めさせようとするが、薫子は諦めたくないようだ。隣の勝彦は、何を言うでもなく成り行きを見守っている。

「あの、お孫さんと会うのは構わないんですが、パーティーには出たくありません」

 勇気を振り絞り、ハッキリ告げる。
 このまま曖昧な返事を返していたら、流れで出席させられてしまいそうだ。

「あら……じゃあ、千紘を連れて来ましょうか。ねぇ、あなた?」

「好きにしなさい。そろそろ行かないと、桜木社長をお待たせしてーー」

 勝彦がパーティー会場を振り返ったタイミングで、子どもの声が耳に届いた。聞き覚えのある声に、千世は隠れてため息をつく。

「千世だ! 千世がいる!!」

 目ざとく千世を見つけると、千紘が飛びついてきた。写真で見たのと同じスーツを着ている千紘は、見た目だけならイイトコのお坊っちゃまに見える。

「なぁ、なんで千世がいるんだ? ……なんか、いつもと違うぞ」

「化粧してるし、オシャレもしてるからよ」

 子どもって、どうしてこんなにも元気なんだろう?
 はしゃぐ千紘が、ちょっと眩しく見える。

「なんでオシャレしてんだ? あ!」

「絶対に違うから」

「まだ何も言ってねーよ」

「言いそうなことくらい、分かるわ」


 
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